動物看護師試験のための行動学「生得的行動④社会維持行動3」

 

動物行動学 生得的行動④(社会維持行動3)

動物の生得的行動についての解説です。
前回は視覚コミュニケーションについて解説しました。
ご覧になっていない方は上のリンクからご確認ください。


今回は社会維持行動の中の聴覚コミュニケーションと嗅覚コミュニケーションの解説となります。
どちらも看護師試験時代ではあまり登場する機会が少なかった範囲です。



聴覚コミュニケーションは音声を使ったコミュニケーションが含まれています。
特にイヌは他の動物に比べると非常によく吠える動物です。
これは「進化・適応・家畜化」の回で解説したように、ヒトと一緒に暮らす上で吠えることがヒトにとって非常に有用であったためと考えられています。


聴覚コミュニケーションの特徴

・長距離での情報伝達で有効
・状況に応じて様々な種類があり、短距離・中距離でも用いられる




イヌの吠えには以下のような種類があります。

・吠え(bark)

よく聞く「ワンワン」がこれに当てはまります。
吠えによって自分の感情や相手へのメッセージを伝えることができます。
しかし、一口に「ワンワン」と表現しても様々な「吠え方」があるのはイメージ出来るかと思います。
一般的にイヌが吠えた時の音の高さや、どのように吠えているかである程度の感情を推察することができます。
トレーナーとして仕事をする上でも重宝する基準となります。

高い声:遊びの勧誘、あいさつ、関心の要求
低い声:警戒、警告、防御

単発の吠え:警戒、警告
連続した吠え:防御、恐怖

文字で書いてもイメージしずらいかと思うので、以下の動画を参考にしてみてください。

こちらは「低い声」で「単発」の吠えの様子です。
やや高い声に聞こえるかもしれませんが、トイプードルではこれくらいの声は低いに分類されます。また、途中うなったり連続して吠えたりする様子も映っています。
外装工事の音や人に警戒している様子だそうです。





こちらは「低い声」で「連続した」吠えです。
窓の外に何かを察知したのですかね?




こちらは高い声で吠えています。
状況として分かりやすい要求吠えですね。






・遠吠え(howl)

遠吠えはイメージしやすいかと思います。
一応定義としては「口吻部を上に向け頭部を固定、または軽く振りながら数秒〜30秒程度持続する発声」となっております。

オオカミの遠吠えはこちら



イヌはこちら
救急車のサイレンに反応している映像です。








・うなり(growl)

うなりは主に威嚇や防御のために発せられることが多いです。
しかし、イヌでは遊びや関心を得るために学習された行動としても出ることが知られています。




・鼻鳴き(whimper/whine)

鼻鳴きはあいさつ、欲求不満、恐怖など様々な状況で発せられます。
多くの場合は不安や葛藤状態にある時に発せられます。




・満足音(grunt)

満足音は聞き慣れない単語ですね。
音としてはうなり声に似ていますが、満足やリラックスしている時に発せられ、うなり声と比べると呼気が多く含まれます。








嗅覚コミュニケーションの特徴

・特定の個体情報を正確に伝達することができる(オドアプリント匂い指紋)
・長時間にわたり情報を残すことができる
・心理状態をリアルタイムに伝達することはできない


嗅覚コミュニケーションは今まで解説した2つのコミュニケーションとは違い、ニオイ物質を使ったコミュニケーションになります。
ですので、一度体外にニオイ物質を出してしまえばその物質が残っている限り、情報を残し続けることができます。

一方、視覚や聴覚コミュニケーションは心理状態をすぐに信号に乗せることが出来ますが、ニオイ物質は体内で生成されるまで時間がかかってしまうため、感情などの情報を残すことは苦手となっています。



嗅覚コミュニケーションには以下のような種類があります。

・マーキング行動


マーキング行動は上の写真のように糞尿などの排泄物を利用した、自分の存在を誇示する行動が含まれます。

ネコのマーキングは腰を下げずに垂直に立てた尻尾を小刻みに震わせて尿を噴霧する尿スプレーと呼ばれています。
イヌの片足を上げた排尿は片脚挙上排尿という名前がついています。


イヌは他の個体が残した尿があると、自分の尿を上からかけるよう排泄をしますが、
ネコは上からかけるようなことはしません。



・匂いこすりつけ行動


イヌの場合、他個体の排泄物や腐敗物などの上に寝転んで身体ににおいをなすりつけるような行動がこれに含まれます。
これはオオカミでも見られる行動ですが、なぜこのようなことをするかは分かっていません。


ネコは口の周りやあごなどにある皮脂腺の分泌物を馴染みのあるものや新しいものにこすりつける行動がこれに含まれます。
また、馴染みのあるものへのこすりつけ行動は、親和的行動のあいさつ行動であるとの見方もされています。


・あいさつ行動



嗅覚を使ったコミュニケーションは他個体とのあいさつとしてよく使われています。

イヌではあいさつで互いのお尻のにおいを嗅ぐ行動をすることがよく知られています。
一般の飼い主さんで「年上が先ににおいを嗅ぐ」という方がたまにいますが、イヌの優劣関係において年齢は必ずしも重要な属性ではありません。
肛門から情報を得るためと考えられていますが、実は詳細は分かっていません。





最後に、嗅覚システムについて解説します。


嗅覚システム

・一般的なにおいは主嗅覚系システムで嗅上皮から主嗅球へ情報が送られる
・フェロモンは鋤鼻(じょび)系システムで鋤鼻器から副嗅球へ情報が送られる



ヒトなどの一部の動物を除き、動物には鋤鼻器という感覚器があります。

イヌやハムスターは舌の出し入れや、血管を縮小と拡張によって鋤鼻器内を陰圧にしてにおいを取り込む鋤鼻ポンプと呼ばれる仕組みを使って鋤鼻器を使っています。


ネコやウマ、ヤギなどの多くの動物はフレーメン反応を使って鋤鼻器を使っています。







以上、社会維持行動の聴覚・嗅覚コミュニケーションについての解説になります。
試験にあまり登場しない内容ですが、国試でも出ないという保証はないので映像などとセットで理解してもらえればと思います。


扱って欲しい内容などがあったらコメントなどで残してもらえると嬉しいです。

当面は統一機構に載っている試験範囲を優先的に扱う予定となっております。







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