動物看護師試験のための行動学「生得的行動③社会維持行動2」

 

動物行動学 生得的行動③(社会維持行動2)

動物の生得的行動についての解説です。
前回は社会維持行動について解説しました。
ご覧になっていない方は上のリンクからご確認ください。




今回は前回までに紹介した社会的行動以外のものを解説します。

社会行動には他個体とのコミュニケーション行動も含まれています。

コミュニケーションについて少し詳しい解説をします。
コミュニケーションをする際は、信号を送る側とその信号を受け取る側に分かれます。

情報の送り手は「相手と仲良くしたい」、「相手に離れてほしい」などの信号を受け手に送り、その信号を受け取った受け手の行動が変わった際にコミュニケーションが成立したと考えることができます。


送り手は受け手に伝わりやすい信号を送るようにしなければなりません。
分かりにくい信号を送ってしまうと受け手に誤解されたり、伝わらない可能性が出てしまいます。
なので、動物が発する様々なコミュニケーション方法(信号)は非常に分かりやすくなるよう進化してきました。



正反対の原理とは

正反対の原理とは、感情が正反対(怒り⇄恐怖)な時、それを表す信号(表情や姿勢など)も正反対になる

これはダーウィン著「人および動物の表情について」の中に掲載されているイヌのスケッチです。

左は怒っているイヌ、右は怖がっているイヌが描かれています。
それぞれのイヌの表情や姿勢に注目すると、怒っているイヌの耳や尻尾はピンと立ち、相手をじっと見つめ、身体の重心は前に傾いていますが、右の怖がっているイヌの耳は後ろに倒れ尻尾も股の間に入り、目は細め、重心も後ろに傾いています。

このように感情が反対になると、それを表す信号も正反対になってしまうくらいに、動物の発する信号は誤解されないよう分かりやすく進化してきました。





動物がコミュニケーションをとる際には主に以下の方法を使用します。


感覚器コミュニケーション

・視覚コミュニケーション
・聴覚コミュニケーション
・嗅覚コミュニケーション

視覚コミュニケーションとは相手の視覚に入る情報を出し、相手の行動を変えるコミュニケーション方法です。
上で解説した正反対の原理で紹介した表情や姿勢はこれに当たります。

今回は視覚コミュニケーションについて解説します。


視覚コミュニケーションの特徴

・相手から見える距離で有効
・相手の様子を見て瞬時に信号を切り替えられる

視覚コミュニケーションの1番の特徴は自分の感情などを瞬時に信号として相手に送れる点にあります。
威嚇した相手も威嚇で返してきた時、自信が弱くなれば不安が入り混じった表情や姿勢にすぐに変えることが出来ます。



イヌの表情


・攻撃心が強いと耳は前を向き、マズルにシワを寄せ相手を真っ直ぐ見つめる
・恐怖心が強いと耳は後ろに倒れ、マズルにシワはよらず伏し目がちになる
・恐怖と攻撃陣が入り混じるとそれぞれの中間のような表情になる


この図はコヨーテの表情を表したものです。
1は平常時を表し、右に移るほど攻撃心、下に移るほど恐怖心が増した時の表情を表しています。

3は恐怖心が全く無く、攻撃心が最大の時の表情です。
耳は前を向きマズルにシワが寄っています。目は相手をまっすぐ見つめています。

7は攻撃心が全く無く、恐怖心が最大の時の表情を表しています。
耳を後ろに倒し口角も後ろに引き、目は伏せがちになっています。

9は恐怖心と攻撃心がそれぞれ最大の時の表情です。
耳は後ろに下がっていますが、7ほど倒れてはいません。口も歯を剥いていますが3に比べると口角が後ろに引かれています。
ちょうど3と7が半々になったような表情ですね。




ネコの表情


・攻撃心が強いと耳は横を向き、口は開けずない
・恐怖心が強いと耳は後ろに倒れ、口を大きく開けて瞳孔が広がる
・恐怖と攻撃陣が入り混じるとそれぞれの中間のような表情になる


これはネコの表情を表した図です。
コヨーテのものと同じように、左上が平常、右上は恐怖ナシ攻撃最大、左下は恐怖最大攻撃ナシ、右下は攻撃恐怖共に最大の時の表情です。


ネコの表情はコヨーテと少し違う点があります。

攻撃心が最大の時、コヨーテは口を開けて歯を剥いていましたがネコの場合は口は開けていません。
耳も前ではなく横に向けています。
ネコの表情のポイントとして瞳孔の大きさも判断基準となります。
攻撃心が最大の時、ネコの瞳孔は平常時と比べてやや大きくなっています。

恐怖心が最大の時、耳を後ろに倒している点はコヨーテと同じですが、ネコは口を大きく開け瞳孔が大きくなっています。

攻撃と恐怖が最大の場合、ネコもそれぞれが入り混じった様子になっています。
耳は横を向いていますが、口を開けて瞳孔が大きく開いています。



コヨーテとネコで同じ点、違う点を押さえておく必要があります。







イヌの姿勢

・恐怖心が強くなると姿勢は低くなる
・E、F、H、Jの名称を押さえよう



上の図はイヌの感情による姿勢の変化を表したものです。
Aは平常時を表し、下に移るほど恐怖心が強くなっています。
Bから左右に分かれていますが左上は攻撃心へ、右は友好的な感情へ移った場合を表しています。


ポイントにもあるように、姿勢ではE、F、G、Jに名称があり、それが試験に出ることがありました。

Eは能動的服従姿勢と呼ばれ、相手をなだめる際に見られる姿勢です。
耳は後ろに倒れ重心は後ろに寄っていますが、尻尾は低く小刻みに振っています。怒っている相手にこの姿勢をしながら近づき、怒りを鎮めてもらおうとする姿勢です。自分から積極的に相手に働きかけをするため能動的という言い方をされています。


Jは消極的服従姿勢と呼ばれ、一般的には「ごめんなさい」の姿勢と呼ばれています。この姿勢をしている時は能動的服従姿勢と違い、お腹を見せたまま動かないことがほとんどです。ですので消極的という言い方をされています。
ちなみに、この姿勢をしているイヌが全面降伏をしているかというと、実はそうではないという意見もあります。この姿勢をしたイヌに距離を縮めると、突然ガウッと反撃するケースも少なくありません。




Fは先制的攻撃姿勢と呼ばれています。
この姿勢は自信たっぷりに相手をぶっ飛ばしてやろうとしているイヌによく見られます。
耳や重心が前、尻尾を真っ直ぐあげており、表情からは恐怖心がほとんど見られないのが特徴です。



Hは防御的攻撃姿勢と呼ばれています。
この姿勢は「相手が怖いけど自分の身を守るために戦うしかない」という恐怖と攻撃が入り混じったイヌに見られます。
耳や尻尾は恐怖を表していますが、歯を剥いて相手を威嚇しているのが特徴です。







ネコの姿勢

・同じ感情の姿勢でもイヌと大きく違うものがある
尻尾が上がっているのは攻撃と恐怖が入り混じっている時のみ


上の図はネコの感情による姿勢の変化を表したものです。
この図は表情と同じように左上が平常時、右に移動するほど攻撃心が増加、下に移動するほど恐怖心が増加しています。
ここでも特徴的な3つの解説をします。



ネコの先制的攻撃姿勢は耳を前に向け重心が前になっている点はイヌと同じですが、尻尾はイヌと違って下に垂れています。





ネコの受動的服従姿勢はイヌと違い、伏せた状態になっています。
リラックスしている姿勢と似ていますが、受動的服従姿勢では耳は横に倒れ、前肢が身体の外に出ています。
ネコがリラックスしている時にするいわゆる「香箱座り」は前肢が身体の内側に収まっているのが特徴です。





ネコの防御的攻撃姿勢はイヌと大きく違い尻尾は太く真っ直ぐ上に上がっており、背中を山なりに曲げています。



以上、社会維持行動の視覚コミュニケーションについての解説になります。
イヌネコの姿勢や表情は実地試験に出ることもあるので、ポイントを押さえて得点源にしたいですね。



扱って欲しい内容などがあったらコメントなどで残してもらえると嬉しいです。

当面は統一機構に載っている試験範囲を優先的に扱う予定となっております。










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