動物看護師試験のための行動学「生得的行動①個体維持行動」

 

動物行動学③-1 生得的行動(個体維持行動)


動物は歩く、食べる、飛ぶ、鳴くなど様々な行動をします。
これらの行動は「教えてもらわなくても出来る」行動「経験を重ねて出来るようになる」行動に分けることが出来ます。

人間では掴む、発声などは生まれたての赤ちゃんでも出来る行動ですね。
一方、字を書く、靴紐を結ぶなどは他の人に教えてもらわないと出来ない行動です。



生得的行動とは

このように教えてもらわなくても出来る行動を生得的行動と呼びます。


生得的行動には様々な種類があり、分類もあります。
まず、その行動が自分一人で出来るのか、相手がいるのかで分けることが出来ます。



個体行動・社会行動とは

一人で行う行動のことを個体行動複数頭で行う行動のことを社会行動と分類します。




次に、行動の機能面で分類することが出来ます。


維持行動・生殖行動・失宜行動とは

自分の生命や群れを維持する機能をもつ行動を維持行動
生殖や子育ての機能をもつ行動を生殖行動
適切ではないタイミングで現れ、葛藤状態を表現・発散する機能をもつ失宜行動



これら2つと3つの分類に分け、それぞれの組み合わせで、対象とする行動がどれに分類されるか分かります。

注意:個体行動は3つの分類の中では生殖行動に当たるものはありません。生殖も子育ても相手がいないと出来ないからです。





個体維持行動とは

個体維持行動はその個体の生命活動を維持するために必要な行動が含まれています。
具体的には「摂食」「飲水」「排泄」「身づくろい」「護身」などが個体維持行動に属します。


摂食行動


摂食行動は字の通り食べることに関する行動です。
しかし、摂食行動では食べるまでの過程もこれに含まれています。

イヌやネコを飼っている、または以前飼っていた人には馴染みがあるかと思いますが、コンパニオン・アニマルとして代表格であるイヌネコでも摂食行動に大きな違いがあります。

イヌは基本的に目の前にある食べ物は全てお腹の中に入れてしまいますが、ネコは食べたい分だけ食べ、いらない分は残すという食べ方の違いがあります。

同じ食肉目ですが、なぜこのような違いが生じているのでしょうか。

なぜなら、「進化」のページで説明した通り、イヌネコそれぞれがどのような場所で生活してきたかによる違いによるものです。


イヌはミアキスからトマークタス、ハイイロオオカミと進化の道を辿ってきました。
トマークタスになったミアキスたちは、生活する環境を森林から草原へ変えました。草原は森林に比べ、獲物となる動物達は大型になり外敵を発見しやすいよう身体が進化していました。
そのような場所で狩りをするとなると、森林にいた頃に比べ狩りの成功率は下がってしまいます。
そのためイヌの祖先たちは仲間と連携して狩りをするようになりました。獲物が獲れた際には、次にいつ食べられるか分からないので、食べられるだけ腹の中に突っ込むような習性を身につけました。


一方ネコの祖先となったミアキスは森林に留まったので、獲物は小さい動物がメインとなります。
一度にお腹がパンパンに満たされることはありませんが、小腹が空いたらその都度狩りをするという生活を続けたため食べ物を小分けにし、自分で調整できるような習性を身につけました。

一昔前、ネコを飼っている家庭が旅行などに行く際に「ご飯をまとめて置いておく」ということはよくありましたが、これはネコの食性に合っているから出来るのですね。



味覚嫌悪学習とは

摂食行動に関するものとして味覚嫌悪学習というものがあります。
これは腐敗していたり毒のある食べ物を食べた後、嘔吐や下痢などを経験することにより、その食べ物を口にしなくなるというものです。

のちの学習行動のページで説明しますが、経験によって動物が学習する際には何度もトライ&エラーを繰り返します。イヌに「お座り」を教える時は何度も繰り返してようやく覚えてくれますね。
また、学習の基本として動物が行動した直後の出来事で、その行動の増減に影響を与えるというのもあります。
イヌが「お座り」で座ったらすぐに褒める、イタズラをしたら現行犯で「ダメ」というのは、これに当たります、

しかし、この味覚嫌悪学習の特徴はたった一度の経験によって、しかも口に入れてから何時間も経った後の出来事(下痢や腹痛など)でも、口に入れた食べ物と関連付いてしまうという点です。


なぜこんな特徴があるかというと、食べるという行動は命に直結しているからです。
もし味覚嫌悪学習が存在しなかったら、我々動物は何度も毒キノコを食べてしまう可能性があります。
そんなことをしていたら命がいくつあっても足りません。

そのため、一度の経験で強い忌避的な学習が起こるのです。




摂食行動に関する問題として、異嗜(いし)や毛織物吸い行動(ウールサッキング)などがあります。

異嗜とは食べ物ではない物を食べてしまうことを指します。
ネコに比べるとイヌでよく起こることが多いです。
石や葉っぱ、ペットシーツなどがよくある異嗜の対象です。

原因は様々で慢性消化器障害や肝臓疾患などの場合もあれば、飼い主や周りの人の注目を集めるためだったり、異常行動のページで紹介する常同行動などの場合があります。



毛織物吸い行動はネコに多く見られるです。
毛布やセーターなどの繊維質やビニールなどの合成繊維を吸ったり噛んだり食べたりする行動です。
これも原因は様々で、シャムなどの特定の品種で多く認められていたり、早期離乳によって不安傾向が増したためなどがあります。
口に含んでいた物を飲み込んでしまった場合、閉塞などを起こす危険性があります。






飲水行動

飲水行動も字の如く、水を飲む行動です。


「動物が水を飲む」というと舌を使う姿をイメージされる方が多いかと思います。

しかし、ウマやヤギなどは人間と同じように唇を窄めて水を吸い上げて飲むことが出来るんです。

ちなみに鳥類はクチバシを持っており、クチバシを曲げたりすることはできません。
なので、鳥類が飲水をする際は、クチバシで水をすくい上げ、上を向いて喉に流し込むような動きをします。


排泄行動

排泄に関する行動は動物種による違いが大きいです。
草食動物は1日に10回以上排便をするが、雑食・肉食動物は2~3回程度であることがほとんどです。
また、トイレを覚えるかどうかの指標の一つに、その動物が巣を持つかどうかという点があります。
イヌネコを除くトイレを覚える動物としてウサギがいますが、現在ペットとして流通しているウサギのほとんどはアナウサギの仲間です。
アナウサギは文字通り穴を巣として生活する動物ですので、決まった場所に排泄をする習性があります。

しかし、同じウサギでもノウサギの仲間は巣を持たないため、基本的にはトイレを覚えることはありません。

ちなみに我々ヒトも元々は巣を持つ動物ではなかったため、決まった場所に排泄する習性は持っていません。
子どもがある程度大きくなった際に「トイレトレーニング」をしますが、これはどちらかというと「決められた場所に排泄をする」という文化の側面があるのです。


身づくろい行動

個体維持行動に含まれる身づくろい行動は主に自分自身の皮膚や被毛をケアする行動が含まれます。
身づくろいをすることで汚れや寄生虫の排除したり、傷口の洗浄などの機能があります。鳥類では羽づくろいにより脂肪を羽に塗りつけ、羽の防水機能を高める機能ももちます。



護身行動

馴染みが無い単語として「護身」があるかと思います。
これは自分の身を護るための行動ですが、防御のための攻撃行動などはここには含まれません。
この護身行動に含まれるのは「外部の刺激」から身を護る行動です。

具体的には
・暑い環境で体温を下げるためにパンティングをしたり、水や泥を浴びる
・寒い環境で体温を上げるために震えたり、丸くなる
・見慣れない物体に対して硬直する

などが含まれます。



生得的行動の中の個体維持行動の解説は以上になります。


扱って欲しい内容などがあったらコメントなどで残してもらえると嬉しいです。

当面は統一機構に載っている試験範囲を優先的に扱う予定となっております。


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